第二十八話
恐怖度ナンバー1「生きている小平次」二十一年ぶりの再演 
 夏の風物詩、怪談芝居が早くも歌舞伎座六月公演に登場する。「生きている小平次」(鈴木泉三郎作)。
 一九八七(昭和六十二)年六月以来二十一年ぶりの歌舞伎座上演となる。幸四郎、染五郎、福助の出演。
 怪談といえば、死んだ人が幽霊になったり、まったく異様な化け物が出てきたりするのが相場だが、この「小平次」は違う。殺しても殺しても生き返って目の前に現れるのだ。世の中、これほど怖いものはない。山東京伝作の「復讐奇談安積沼」を原典にしたこの話は、単なる怪談というより、不条理の世界を描いた心理劇ともいえる芝居である。
 ―役者の小幡小平次は、同じ長屋に住む囃子方の那古太九郎の女房・おちかに惚れていて、再三言い寄っている。おちかの方もその気があるようなないような…。ある時、小平次は旅興行に出掛けた先で、太九郎に「おちかを譲ってくれ」と頼む。逆上した太九郎は、一緒に乗っていた舟から小平次
を突き落とし、櫂(かい)で殴り殺してしまう。
 帰った太九郎は、おちかにことの経緯を話す。ところがその夜、二人の寝床に、死んだはずの小平次が現れる。隙をみて再び小平次を殺す太九郎。だが、また…。
 歌舞伎座では二十一年ぶりの上演だが、それ以前には映画化されている。一九五七年東宝映画(青柳信雄監督)、八二年ATG作品(中川信夫監督)である。
 朗読劇としても取り上げられている傑作である。
 彦六の八代目林家正蔵が、しばしば高座に掛けていたことでも知られている。
 「江戸もそろそろ末に近いころでございます。奥州・郡山の在、安積沼の上からこの噺は始まります。陰暦四月の末と申しますから、ただいまの五月半ばを越したかどうかという時分のことで…」
 怪談噺を得意としていた彦六が、例の震えるような口調でおどろおどろしく語って、お客さんを震え上がらせていた。
 彦六の「生きている小平次」は、歌舞伎と同様、鈴木泉三郎の作品を取り上げたものだが、落語には、「小幡小平次(こはだこへいじ)」という歌舞伎役者の出世譚がある。役作りの苦心談を描いた人情噺「中村仲蔵」や「淀五郎」ほど知られていないし、現在ではもう演じる噺家もいない。
 ―小幡小平次という大部屋役者が、狂言作者に五両の金を贈っていい役を頼む。ところが、くれた役が幽霊ひと役。せりふも三下り半しかない。不平不満を言っていると、世話人が「お前の顔は幽霊にぴったりだ。工夫して一生懸命やれ」と励ます。そんな折、近所の爺さんが死んだことを聞いた小平次は、それを手本に立派な幽霊役を作り上げる。共演の二代目市川団十郎を感心させ、名題に出世する―。
 幽霊の役作りなど落語らしい題材で、滑稽味もある噺である。誰か、復活させてくれないだろうか。
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