第十五話
落語にし難い平家と義経の悲劇
 『義経千本桜』は、源氏と平家の壮絶な争いをテーマとしているが、むしろ、平家の没落を追った物語と考えた方がいい。
 現代でもあちこちに登場する「紅白○○合戦」という呼び方が、源氏の白旗、平家の赤旗から由来していると思うと、いかに日本人が源氏と平家の戦いに興味をもっているかが分かる。
 源平を題材にした歌舞伎や浄瑠璃は、かの「忠臣蔵」に匹敵、いやそれ以上に多い。
 「勧進帳」「一谷嫩軍記」「ひらかな盛衰記」「源平布引滝」「義経腰越状」「平家女護島」「梶原平三誉石切」「嬢景清八島日記」「近江源氏先陣館」「御所桜堀川夜討」「鎌倉山」「須磨都源平躑躅」。新歌舞伎にも「頼朝の死」などという傑作もある。
 数え切れない歌舞伎狂言に対し、ゆかりの落語が少ないのが不思議である。落ちて行く平家、理不尽にも兄・頼朝に追われる義経らの悲劇性が強くて、からかったり、パロディー化し難かったのかもしれない。日本人の、特に江戸っ子の「判官贔屓」のしからしめるところかもしれない。
 平家の猛将、悪七兵衛平景清の目にあやかった落語「景清」がある。
 目の見えなくなった男が、開眼祈願のため、景清が自分の目をくりぬいて納めたという清水様に熱心に通ったところ、目が開いたという噺。実は、この後、男が大名の行列に出会って乱暴を働く、というくだりがあるが、八代目桂文楽が「おめでたいおはなしです」とサゲたので、現在はこの形が踏襲されている。
 「源平盛衰記」は、題名通りの落語である。木曽義仲追討した勢いで、平家を屋島、壇ノ浦に追い詰めた義経の奮闘ぶり…。
 地噺(会話部分の少ない説明的な落語)の名手だった十代目桂文治の口演が面白かった。義経、頼朝、義仲、弁慶、那須与一などなど、源平の主人公が脈絡なしに次々と登場して、笑いの材料にされる。
 現・林家正蔵の父親、三平が高座に掛けた古典落語風な噺はこれだけだった。しかも、客をいじって(客に話しかけたりする)ばかりで本題の噺はちっとも進まなかった。
 三平が、「源平」をやるようになったのは、三平の父、七代目正蔵が得意としていたからである。戦前のこと、英語などを使ったモダンな落語だったらしい。
 「瘤弁慶」「船弁慶」という上方落語もあるが、荒唐無稽なためか、やる人がいなくなった。義経は、歌舞伎に向いているのである。
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