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第十九話
西洋文化を貧欲に取り入れた
明治の歌舞伎と落語 |
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歌舞伎座七月公演「NINAGAWA・十二夜」は、かのシェークスピアが四百年前に書いた戯曲の歌舞伎版である。一昨年七月に初演され、大当たりを取った。
菊五郎の遊び心と菊之助ら若手俳優のはつらつとした演技で、原作とはまた違ったシェークスピアの世界―新しいセバスチャン像(歌舞伎人物名「主膳之助」)、シザーリオ像(同「獅子丸」)、バァイオラ像(同「琵琶姫」)が描き上げられた。まず、原作にある登場人物の名前を日本語に置き換えた命名が何とも巧みで、楽しいではないか。 |
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そもそも融通無碍、自由闊達さを売り物にしている歌舞伎の世界だからこそ、いわゆる、洋物を取り入れることには何の抵抗もなかったのだろう。
単純にシェークスピア作品を翻案した形のものとしては、「ベニスの商人」を「何桜彼桜銭世中(さくらどきぜにのよのなか)」と銘打ち、世話狂言として1885(明治18)年、大阪で上演しているし、その翌年には江戸末期、明治初期のジャーナリスト、戯作者の仮名垣魯文が「ハムレット」を「葉武列土倭錦絵(はむれっとやまとにしきえ)」の題名で浄瑠璃に翻案して新聞に連載している。
その「葉武列土」が、百余年を経た1991(平成3)年、市川染五郎の二役で復活上演され、好評を博したことはよく知られる。その後、同作品はロンドンで開かれたジャパン・フェスティバルに招かれて、絶賛されたという。
これらの作品の翻案・上演を嚆矢として、シェークスピアに留まらないで、数多くの洋物が日本の舞台で上演されたのである。
明治初期の文明開化、ヨーロッパ文明の移入を旨とした時代の趨勢は、歌舞伎のみならず、落語も例外ではなかった。
まず、三遊亭円朝作の「死神」である。
円朝が、イタリアのオペラ「靴直しのクリピスノ」を翻案したもの、といわれている。ところが、この説には異論があって、「グリム童話」にも似たような物語が存在し、円朝がそれらを含めたさまざまな話を取り込んで作り上げたものだろう、というのだ。いずれにしてもヨーロッパの先行作品を翻案あるいはヒントにしたことには違いなかろう。
同じ円朝作で、指物師の名工を描いた「名人長二」も、モーパッサンの小説「親殺し」を翻案した作品だといわれている。
円朝には西欧の小説などを原話にした作品が他にも沢山ある。
画家と芸者の愛を描いた「錦の舞衣(名人くらべ)」はフランスの劇作家サルドウ作の「ラ・トスカ」の翻案、明治開化期、旗本の末裔として育った男の数奇な運命を追った「黄薔薇(こうしょうび)」も、やはりフランスの小説「毒婦ジュリアの物語」から作った。そして、「英国孝子ジョージスミス之伝」、「英国女王イリザベス伝」などという作品もある。
明治33(1900)年に没した円朝の西欧の文化・文明への関心の深さは驚くべきものがある。 |
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