第二十二話
日本全国に「羽衣伝説」、
 世界中に存在する不思議
 玉三郎の天女、売り出し中の若手・愛之助の伯竜による「羽衣」は、歌舞伎座十月公演の昼の部を華やかに飾ってくれるだろう。天から舞い降りた天女に恋する男の物語は、ロマンとメルヘンにあふれた夢物語である。これほど、舞台映えする舞踊も他にあるまい。
 原話は「羽衣伝説」である。歌舞伎にも落語にもよくある話だが、伝説や民話を題材にした演目は数知れない。その最たるものがこの「羽衣伝説」である。
 「羽衣伝説」で、最も有名なのは、静岡県清水区の三保の松原である。遥か富士山を仰ぐ三保海岸の松原には、天女が羽衣を乾したと伝わる―といっても、もう何代目かの松が保護されている。記念撮影をしてゆく観光客が跡を絶たない。
 この松原で、毎年秋、薪能が開催される。出し物は決まって「羽衣」である。その何代目かの本物の松が松羽目代わり。その背景に駿河湾の海。陽が沈むと、静かな海面に漁火が点々と揺らぐ。巧まずした見事な演出に、いつの間にか幻想の世界にいざなわれる。各地で薪能が盛んだが、一見の価値ある舞台である。
 富士山と海のお陰で、有名度一番の「羽衣伝説」だが、古さでは他に譲る。
 滋賀県余呉町の「余呉湖」が最古という説、いいや京都府旧峰山町に伝わるのがより古い、と、地元住民の「一番争い」はかまびすしい。余呉では湖畔に天女像を建立してPRに務めている。
 他にもあるある。大雪山の「羽衣の瀧」、奄美大島の「天降(あもり)川」、琉球王の母親は天女だった、などなど、北海道から沖縄まで、十や二十では利かない「曰く因縁話」が語り継がれているのだ。天女が水浴びした川や湖、衣を乾した木や石などと―。
 物語は、いずれも共通している。七つの星(八つという地方もある)が天から舞い降りてきて、そのうちの一つの星の羽衣を誰かに隠されてしまって、天に帰れなくなった、というものだ。その残された天女に、地球の男を絡ませて、恋物語、悲劇、悲恋物語を創り上げたものだろう。
 類似した伝説は、世界中に存在していることが知られている。中国を中心としたアジアに比較的多いが、ヨーロッパ各国の民話の中にも拝見できる。
 好奇心の強い落語だって、放っておかない。
 落語「羽衣」は、羽衣を奪った猟師が、天女から「嫁になるから、あいさつ回りのために羽衣を返しておくれ」とせがまれる。「逃げるつもりではー」「いや、ウソはつかないよ」。で、渡してしまう。ところが、天女はそれをまとうと天高く舞い上がって行くではないか。「天女さん、さっきの話はウソかい」。すると、天女は空中から「みんな空っことだよ」―。
 落語としては余りにも単純、荒唐無稽なので最近ではほとんどやる人がいなくなった。
 「羽衣」は聴覚より視覚向きのようである。
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