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第二十三話
庚申に生まれると盗賊になる?
江戸時代、庚申の夜に生まれた子は泥棒になる、という民間伝承が根強く信じられていた。
この「庚申信仰」は、元々は中国の古い伝承の一つで、人間の体内に潜む「三尸虫(さんしちゅう)」が、庚申の夜になると人間の体内から抜け出し、わるさをする。それをさせないために一晩中起きて見張る。これが「庚申待ち」。現在でも、実行している地域があるという。
その「三尸虫」だが、広辞苑によると、「道教で、人の腹の中にすんでいるといわれる三匹の虫。眠っている間に、その罪を上帝に告げる、あるいは、人の命を短くする」というものである。これが転じて、盗賊になるという言い伝えができてしまったようだ。
もし、その夜に生まれた場合、名前に金か金偏の付く字を使うと難を逃れるといわれた。明治の文豪、夏目漱石は、庚申の夜の生まれだったが、本名に「金之助」を付けて難を避けたというのだが…。
さて、奪った百両の金と名刀「庚申丸」をめぐって数奇な展開を繰り広げる人気狂言「三人吉三巴白浪」。
お嬢、和尚、お坊―同じ「吉三」を名乗る三人の白浪(盗賊)は、揃って「庚申の夜」の生まれである。庚申の夜は男女の交わりをしてはならない、という禁を犯した結果生まれてきた三人である。
なるほど、盗賊になったし、三人揃って短い一生を終えることになる。「庚申伝承」をしっかり踏まえた黙阿弥の傑作である。
その庚申の夜に、ある宿で起きた話が落語「宿屋の仇討」。
庚申待ちの夜明かしをしようと町内の旅籠屋に職人や若い衆が集まって大騒ぎをしている。そこへ、「静かに寝かせて欲しい」と、老侍がやってきて、若い衆の隣り部屋に泊まった。
若い衆のホラ話、バカ話の中に、「十年前、熊谷の土手で老人を襲って金子を奪ったが、老人の顔が浮かんで仕方がない」というのを聞いた侍が、「その老人こそ拙者だ」と言い出した。実はでたらめ、作り話だといっても聞き入れない。揚げ句、男は縛り上げられて静かな夜となった。あくる朝、侍が出発する際、「あれは嘘だ。そうでもしないと、静かに寝られないのでな」と。
これは、五代目古今亭志ん生口演の東京型の一席。庚申信仰がかなり前面に出ている噺だが、近ごろはやる人がいない。実は、三代目桂三木助が上方から持ち込んだ型が、東京の高座に上がることが多い。
東海道のある宿に、一人の侍がやって来て宿泊する。後からやって来た江戸の河岸の若い衆三人が隣り部屋に入って、ドンちゃん騒ぎを繰り広げる。そのうち、自慢話が始まり、一人が「川越である侍の新造とねんごろになったが、弟に見つかったので二人を殺し、金を奪って逃げている」と大ボラを吹く。
それを聞いた侍は「殺された妻と弟の敵」と、縛り上げてしまう。あとは、志ん生版と同じ、安眠のための芝居だった、と。
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