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猿若町の人々 第二回 |
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歌舞伎床山
鴨治歳一(かもじとしかず) |
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歌舞伎床山とは
鬘屋(かつらや)から受け取った鬘を結い上げ、公演期間中に維持管理をする。鬘は主に人毛で作られる。公演毎に用意され、終演後は部品ごとにバラされる。東京鴨治床山は主に立役を扱う。 |
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前髪の長さや毛の立たせ方で、その人の第一印象が決まるように、歌舞伎の登場人物は、衣裳や鬘で人となりがすぐわかる。粋な兄貴か、野暮な侍か。力自慢の荒武者か、花街一番の売れっ子芸者か。性格を際だたせたり、私達がそうと意識しないところでも演出をしているのだ。
例えば、寺子屋で、松王丸が使う鬘は2種類あるのをご存じだろうか。鬘の種類は同じでも、実は前後で大きさが変わっている。衣裳や演技に合わせてバランスを取っているのだ。また、籠釣瓶の佐野次郎左衛門の鬘は、見染ではいかにも田舎者だったのに、縁切りの場ではきりっと旦那風。そう見えるのも鬘の効用。
「鬘合わせが大切です。役が決まると役者さん、鬘屋さん、床山の三者で打ち合わせをします」
鬘屋と床山の違いは、わかりやすく言うと台金(だいがね)という土台に髪を植えるまでが鬘屋の仕事で、それを受け取って、切ったり、結い上げたり、整えたりするのが床山さんの仕事。ヘアスタイリストとでも言おうか。
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東京鴨治床山株式会社代表取締役会長
昭和13年江戸川区生まれ。東京鴨治床山(株)の創設者鴨治虎尾の四男。昭和28年入門。吉右衛門劇団付きの床山に。守田勘弥、十一代目團十郎、雀右衛門、團十郎、三津五郎など担当。 |
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東京鴨治床山(株)は戦後、復員されてきた雀右衛門さんに「床山に戻ってきて欲しい」と頼まれた歳一さんの父、虎尾さんが始めた。明治36年生まれの父は床山界の立役の名人と言われた堀越利三郎氏に11才で入門し、手ほどきを受けた。堀越氏の父が九代目團十郎の仕事をしていた縁もあり、その腕を見込まれ、虎尾さんは十一代目團十郎、初代吉右衛門などを担当。その父に中学3年の夏休みに歌舞伎座に連れて行かれた。
「初めての歌舞伎座です。上手の照明室に入れてもらって邪魔にならないようそっと芝居を見た。ボロボロ泣きましてね。後からわかったことですが、初代吉右衛門の「引窓」でした」
そして中学卒業後、見習いとして床山に入門。以来50余年床山一筋だ。
「この仕事は休みがありません。熱っぽいたって休めないんですよ。体温計計った経験がありません。ばかなんですねぇ」
鬘は取り置き出来無いので公演ごとに作る。なぜなら、人は痩せたり太ったりしてサイズが変わるし、同じ役でも相手役の背の高さや舞台の大きさなどによって、毎回調整が必要になってくるからだ。
「公演中も結い直すことがありますが、役者さんにはわからないように、いつでも同じように結い直す必要があります。六段目の勘平のように捌くものなんかは毎日調整が必要です」
そんな歳一さんの一番のやりがいは役者さんに気持ちよく出来たと言ってもらえる事なのだそうだ。
「舞台の裏方はみんなそうだと思うよ」
そして長年やっていて嫌になるのは、思うように結えなかった時。一日が終わったあと、気になって、翌朝早く出てきて結い直すこともあった。
「鬘は一度切ってしまったら、もう髪が伸びてこないからね」
逆に気持ちよくやれるのは端敵(はがたき)や色敵(いろがたき)。
「きりっとしてちょっと悪いような、伊右衛門なんか強いやつはやりやすい。2枚目の忠兵衛のようなやわらかい雰囲気を出すのは難しいですね」
そういう役の雰囲気の違いはどのように表現するのだろう?
「長い時を経て代々の役者さんたちと作り上げて来た型があるのです。タボ(頭の後ろの束ねた部分)の位置や形がちょっと変わるだけで粋になったり野暮ったくなったり。ひとつひとつの役の性根に合うようにするのが一番大事です。そのためにそれぞれ鬘の急所、チェックポイントがあるのです」
それを修得するための技は盗めと言われていた。だから芝居を見て、先輩の仕事を目に焼き付けた。
「先代の勘三郎さんが関西歌舞伎に出られた時に手伝いで女形の鬘を箱から出し入れしていて、その鬘をよく見ていました。やる度にあれを狙っています」
亡き守田勘弥さんの部屋に飾ってあった言葉が忘れられないという。
「勘とは最高の力なり、という内容ですが、その勘とは直感のことではありません。技術と経験に裏打ちされた力のことなのです」
明るい光の入る仕事場では、鬘を載せた台が並び、数人の職人さんが、黙々と、しかしにこやかに仕事をされていた。撮影にも快く応じてくださり、さながら居心地の良い美容院。しかも技術は保証済み。きっとここなら花川戸の助六さんも行きつけになるに違いない。 |
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